「スイートリトルライズ」

監督: 矢崎仁司
出演: 大森南朋, 中谷美紀, 小林十市, 池脇千鶴,他



まず印象的だったのが、大森南朋中谷美紀夫婦が住まう団地の一室の住空間。


白を基調とした小奇麗な空間に趣のあるインテリア、寝室の差し色。中谷美紀制作(職業がテディベアづくり)のテディベア、廊下や窓、そしてそこに住まう人、それらを軸性を感じるようアングルに収めており、奇妙な、現実感の薄い空間における緊張関係のようなものを感じるよう仕上げている。


ラストシーンにてこの住宅へは螺旋階段をあがってアプローチすることがわかるが、そのへんてこというか趣味の悪い色、即ちこの夫婦のための住空間はごく普通の団地建物の外装をまとっていることがわかる。


夫役の大森南朋は、妻役である中谷美紀のリアリティのなさに不満、煩わしさあるいは劣等感のようなものを感じていた。そしてリアルの中にパッケージング化された非現実空間の中にさらに自分だけのための空間(部屋)をもち、鍵をかけ外部との接触を断つ。その中ではテレビゲームとだけ心が繋がり、外部からの接触は携帯電話を通して成されるというきわめて奇妙な生活像が生まれる。


一方、妻役の中谷美紀には現実感のようなものがない。大森南朋と必ず心が繋がっていると信じていて、大森が会社から帰ってくる前には必ず家にいるようにし、帰ってくるといそいそと玄関まで出迎え一日の出来事のどんな些細なことでも報告する。


物語が進展するにつれ、夫婦はお互いに足りないものを感じるようになる。それが明確になるのが大森南朋の部屋で、そのきわめてプライベートな閉ざされた部屋に中谷美紀が夕飯を持ち寄り、「この家には恋が足りない」という。


そこから先、夫婦は自分の求めるもの(恋の情熱あるいはリアリティのある人間との触れ合い)を追い求め、互い以外の相手でそれを補完してゆく。嘘をつきながら。


その嘘と補完を繰り返す過程で、夫婦は互いの自分にとっての大切さを取り戻してゆく。


中谷美紀の「人は守りたいものに嘘をつくの。あるいは守りたいものに。」という言葉や(なんて現実的に聞こえる言葉であろうか)、


「腕に入るかい?」と自分から妻を心の内に迎え入れる姿勢にそれが如実に表れる。




全編にわたって優しく変化してゆく映画であった。白ベースだから、差し色(夏の緑、水族館の青、そして薔薇の赤)がイベントにおいて効果的であったし、変化もみえた。
浮気相手の池脇千鶴の演技(特に最初)がよかった。こういう後輩いそう。
小林十市はついていけなかった。




白い壁をバックに中谷美紀がフレームに収まるだけでそれが作品的美しさをもつのは、単純に感動しました。




観賞場所:シネマライズ